SUZUKI IGNIS Super1600 同乗走行す
「スズキ・フェスティバル2003 in 筑波」なるスズキのモータースポーツイベントで筑波サーキットに行ってきました。
んで、スズキのイベントですからこんなラリー車も展示されます。2輪車関連やスズキ車のワンメイクレースも開催されていました。
ラリー車の奥にあるのは先頃発売が開始されたスイフト・スポーツ。
今回は抽選でこのクルマのサーキット試乗と最新鋭のイグニスS1600の同乗走行が出来るとのことで、
家からイタリアYESヘルメット社製のsparcoのPro-Jetとグラブを持参してきました。
両方とも申し込んでみたところイグニスS1600の同乗走行に当選しましたので、これのレポートをしてみます。
ドライバーはスズキスポーツの社長で、スズキの4輪モータースポーツ活動の顔とも云える・・・・
モンスター田嶋伸博選手!!!
お昼過ぎに通知された時刻にピットへ出向くと、ピットロードにLHDのイグニスS1600が2台並べてありました。
もう1台はスズキスポーツの専務で全日本ラリーチャンピオンの経験がある粟津原豊選手がドライブします。
今回用意された車両は、舗装路面のサーキットを走ることから車高を低くしたターマック用のテスト車両で、
かなり使い込まれていますが、17インチのミシュランのラリー用スリックタイヤが装着されています。
さていざ順番が来てヘルメットを被ってイグニスS1600に対峙し乗り込もうとしたのですが、
わたしは身体が大きい方なので、X字状のサイドインパクトバーを持つロールケージを跨いで乗るのが大変です。
ロールケージを跨ぐと今度は黒い生地のBRIDEのレーシングシートにキチンと着席できるか正直気になりました。
ただ元々背の高いワゴンタイプのボディを持つイグニスはドアの天地が他のS1600ベース車よりも大きいので、
かなり楽にコ・ドライバーズシートに座ることが出来ました。
尤もわたしより大きな体躯を持つモンスター田嶋選手がわたしの左側にホワイトとイエローのレーシングスーツを着て、
ヘルメットと赤いバラクラバを付けた状態で座っているので当然と言えば当然ではありますw
わたしは過去にダートラコースで何度か競技車のランサー・エボリューションのコドラシートに乗せてもらい、
あのカーボンクラッチをドン!と急激に繋いだ瞬間に出てくるロケットのような加速をダートラコースを体験しているし、
筑波サーキットは以前わたし自身が自らの愛車で走ったこともあるのである程度のことはわかるのではないかと思いました。
背高なベース車と床面すれすれにセットされたシートのおかげで思いの外居住性の優れているので、
室内は狭苦しさは感じません。
さていよいよコースイン。田嶋選手がシーケンシャルギアボックスのレバーを前方に押し込んで1速に入れると、
いかにもドグギアが噛み合ったような「ガツン!」という音がしてクラッチをゆっくり繋いでいって発進、
ピットロードをそろそろと走ってコースインします。ピットロード出口からすぐさま全開です。
公称出力は200PSそこそこであるから加速感はあるのですが、
AWDターボカーのように0が突如100になって脳みそだけが後方に置かれるような感じはしません。
その間田嶋選手の大きな右手はシフトレバーを数回手前に引いて、第1コーナー手前では3速でターンインします。
もしかしたら急峻なターマックロードのモンテカルロ用にローギアードのデフを入れているのかも知れませんが、
これだけ早く3速に入るとは思いませんでした。
第1コーナーを立ち上がってからは5速まで入れて、S字を抜けて第1ヘアピンではやはり3速まで落とします。
シフトダウンするのにレバーを前に倒すのだけど、これはそれなりの力を要する感じがします。
それにいかにもギアがかみ合った様な音が車内に響きます。対してシフトアップは力を入れずにポンポンと上げていきます。
また機械式LSD特有のチャタリング音は低速時でも出なかったので、駆動系の精度は相当のレベルにあるみたい。
数あるS1600ラリーカーの中で最もフィールが優れているというギアボックスはスズキスポーツ内製。
田嶋選手がバレノ・ワゴン・キットカーでAPRCを戦っていた頃から内製シーケンシャルギアボックスを持っているが、
元を辿ればこれは全日本ダートラやパイクスピークヒルクライムを戦っていた頃のツインエンジンカーからの流用品とのこと。
S1600で専用ギアボックスを持っているのはスズキとプロトン・サトリアぐらいで、
他車はヒューランドやサデフなどの専門メーカーが販売している「市販品」を使っているのだとか。
聞けばシフト操作が重たい物もあって、ドライバーはそれ相応の身体作りをしていないと、
競技速度で何度も操作することによって右肩が炎症を起こしてしまうことさえあるらしい。
あと粟津原車はギアボックスの同乗走行中にギアボックスのトラブルが発生したらしく、田嶋車だけが使われたようです。
田嶋選手は筑波サーキットをコース幅一杯に使って曲がるために、コーナー内側の縁石にタイヤを載せることもあります。
特に筑波では最も難しいと言われるダンロップアーチ下ではタイヤを載せるどころか縁石を跨いでいるのではないかと思いましたが、
イン側タイヤが縁石に載った感じはすごく柔らかく感じられました。それこそゴムボールが縁石に軽く弾んだのではないかと。
荷重のかかっていないイン側だからと言うこともあるかも知れませんが、
一般市販車の場合だとこのような場所では結構「痛い」挙動を示すことがあり、場合によっては足回りを壊したり、
最悪内側の縁石にイン側タイヤを乗せた後にアウト側に側転してしまうことさえあります。
勿論イグニスS1600にはそんなことは全く起らず、筑波サーキットのクリアな路面もあって、
少なくてもここでは総じて乗り心地が優れていて且つグリップ感のある脚周りではありました。
それだけにローリングが思った以上に感じられるのですが、その挙動は実に自然なもの。
車体をキチンと作り、それに見合ったサスペンションを与えることで良い結果が出ているようです。
前輪駆動車はリアサスペンションのセッティングが重要であることはよく知られています。
イグニスS1600はポンポン跳ねることもなくグリップ感があるんですけど、それから考えるとアンダーステア気味。
ヨーイングモーメントが残っている状態でのスロットルオフによるタックイン現象を起こせるようなセットにはしていないようで、
コーナーの進入にはブレーキングだけでなく、シフトダウンでもクルマの姿勢を決めているように感じられます。
姿勢を決定することに関してそれを如実に示したのが2周目の第1コーナーへの進入。
6速から3速にシフトダウン、フロント4ポッドリア2ポッドのブレンボキャリパーで強烈且つ短いブレーキングを行うのですが、
田島選手はブレーキングとシフトダウンと同時に、進入前にステアリングを右左右とソーイングします。
これはラリードライビングのテクニックの1つ「フェイントモーション」と呼ばれる物で、
例えば左コーナーならステアリングをコーナー入口のかなり手前で一旦左に少し切ってから今度は右に切って、
更にコーナー入口で再び左に切ることでクルマに与えられるヨーイングモーメント利用したコーナリングを助ける高等テクニック。
これを行う事の副産物としてはステアリングを切ることでフロントタイヤに抵抗が発生するので、
ブレーキング距離を更に短く出来ることにもあります。
これらから考えると素人考えではあるんですが、
スズキスポーツのスタッフはターマック用テスト車両とタイヤを使ってそれ相応の足回りのテストを筑波向きに行ったのではないだろうか、
と後に考えてしまいました。まず滑らなであろうサーキット舗装を考慮に入れてもですが。
そしてエンジンである。S1600レギュレーションでは9000rpmをレヴリミットとしているのですが、
わたしがデジタルのレヴカウンターで確認したのは8250rpmまで。しかしこのエンジンがすこぶる気持ちいい音を出します。
ターボなぞのかませ物がないぶんダイレクトに耳に入るまさに自然吸気エンジンの高回転域の音。
1000kg以上とレギュレーションで決められた重量はその実ロードカーのイグニスよりも重たい。
とは言え低めのギアレシオと相まって、筑波サーキットの400mの短いバックストレートを3速から順々に6速に刻ませるほどの代物。
カリカリにチューニングするのには決して分相応とは言えなさそうなM13Aなる型式の「お買い物車用エンジン」にそれ相応の「任務」を与えるべく、
スズキでは過去数多くの栄光を勝ち取ったモーターサイクルレーシング、
更にはAPRCを戦ったバレノ・キットカーで得たノウハウを生かして仕上げたのが今のS1600用ユニットと言うことになります。
そしてわたしが僅か2ラップの間にこの黄色いラリーカーに与える言葉は「至極快適」であること。
成績さえ良ければ快適性は二の次という時代は過ぎ去り、良い結果を出すにはクルーに出来る限り余計な負荷を与えないという現代のラリー車です。
キャビンの大きさによる居住性の良さに始まり、駆動系の滑らかさ、乗り心地の良さ、エンジンのパワフルさなどが上げられるが、
何よりもその性能を引き出したモンスター田嶋選手の存在が大きい。
とにかく乗っていて思いの外快適で、実に楽しかったことと言ったら言葉もありません。
ただ来シーズンは別の車両を使うとのことだが、そのときはもう少し格好の良いデザインのベース車を与えるべきだとは思いました。
